この記事は2020年12月5日に地域日刊紙『大衆日報』に掲載されたものです。
コラム『おいしい おしゃべり』VOL.86 2020年12月号
いよいよカレンダーが最後の一枚となりました。
これから寒い冬がやって来ますが、温かい物を食べて心と体に栄養と元気を届けて下さいね。
さて前回に引き続き、昔の言葉「かいもち」はかきもちか?についてです。
今回は、『宇治拾遺物語』(うじしゅういものがたり)の中の『稚児のそら寝』(ちごのそらね)というお話をご紹介しながら考えてみたいと思います。
結論から申しますと、このストーリーから「かいもち」は「かきもち」ではない事が私の中で決定的となりました。
『宇治拾遺物語』の中から『稚児のそら寝』
物語はこうです。(現代語に訳しています)
『昔、比叡山に少年がいました。ある夜、僧達は退屈だったので、「かいもちでも作ろう!」と言い出しました。少年は期待して聞いていましたが、「だけど、出来上がるのを待って寝ないのも気まずいよな。」と思い、部屋の片隅に寄って、寝たふりをしながら「かいもち」が出来上がるのを待っていると、いよいよ「かいもち」は出来上がったようで、僧達が盛り上がっていました。少年は「きっと起こしてくれるだろう」と思って待っていると、ある僧が「起きて下さい」と言うので、嬉しいとは思いましたが一度で返事をしたら、いかにも待ち構えていたと思われるので、もう一度呼ばれたら返事をしようとこらえて寝ていると、別の僧が「いいえ、起こしてはなりません。幼い子はぐっすり寝ておられるから。」というのが聞こえました。「え、そんな、トホホ。もう一度起こして下され!」と思い、寝ながら聞いていると、ただひたすら食べまくる音が聞こえてくるので、少年は居ても立っても居られなくなり、最初に呼ばれてから随分時間が経ってから「はい!」と答えたので、僧達笑うこと限りなし。』
という面白いお話です。
「かいもち」は「かきもちか」?
この中に「かいもち」が出てきましたが、皆さんはどんな食べ物を想像しましたか?
果たして、「かいもちはかきもち」説の通りなのでしょうか?
私が興味深いのは、僧達はそれほど時間をかけずに「かいもち」を作り上げている点です。
この事から、「かいもち」は「かきもち」の事ではないと断定して良いと思います。
なぜなら、かきもちの製造は早くても5~7日間はかかるからです。
仮に、既に餅の状態だったとしても切って適度な乾燥時間が必要ですし、たとえ乾燥してある状態であったとしても、「かいもちを作って食べよう」というニュアンスとは違うような気がします。
また、「かいもちは牡丹餅」説だとすると、糯米を蒸して丸めて、小豆かきなこをつけて完成だとすると、やはり調理時間がちょっと長いと感じる事と、小豆やきなこを使うのはそう簡単な事だったのであろうか?と疑問に思います。
実際のところは
この物語に登場する「かいもち」は一般的には牡丹餅説となっていますが、
今回は私の推測を交えてお話をしています。
物語のテンポからすると、粉状の物を水でこねて、茹でて出来上がり。
ムシャ、ムシャ、ムシャ。というのがしっくりきます。
例えると白玉のような物です。
だとすると、「かいもちはそばがき」説が一番しっくりきます。
「かいもちはかきもち」説は残念ながら違うようですね。
さて、今回で「かきもちのルーツ」シリーズ④まで来たところで、正真正銘のお供え餅を作る時季となりました。
自分で作るもよし、買うもよし、ぜひ、来年の鏡開きにはご家庭で美味しいかきもちを作ってみて下さいね!
次回は、かきもちの最終章となります。ぜひお楽しみに!
今年も一年間ありがとうございました!
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