この記事は2018年9月30日に地域日刊紙『大衆日報』に掲載されたものです。
コラム『おいしい おしゃべり』VOL.59 2018年9月号
女性一人、業界大手メーカー社員にまじり試験に臨む
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一級パン製造技能士って?①
この記事は2018年8月5日に地域日刊紙『大衆日報』に掲載されたものです。 コラム『おいしい おしゃべり』VOL.58 2018年8月号 製菓学校でも「パンは難しい」と言われていた? 前 ...
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前号の続きです。
私は自分のパン作りの腕を試すために、国家資格であるパン製造技能検定の一級試験に挑戦した、というお話でした。
当日の試験会場を見渡すと女性は私ただ一人でした。
しかも、私と同じ作業台を使う事になった4名の受験者のうち、2名は国内最大手のパンメーカーの総合職、1名も業界第2位の誰もが知っているパンメーカーの社員でした。
私だけ女性、しかも私だけ町の小さなパン屋でした。
試験官の合図でスタートしました。
材料の計量には、電子天秤という便利な器具があるにもかかわらず、試験では、古典的な分銅天秤を用いるのが条件となっていました。
使い慣れない上に手間もかかります。
案の定、業界第2位のパンメーカーの男性は計量に手間どい、試験を棄権してしまいました。
(現在の試験では電子天秤の使用が認められるようになりました)
もはやゲームオーバーか・・・?
次は、計量した材料を混ぜてパン生地を作る工程です。
パン作りにとって、水は欠かす事のできない大切な材料です。
私は、あらかじめ計量した水を二つの容器に用意しておきました。
なぜ、二つの容器に用意したかというと、小分けしておいた方が扱いやすいと考えたからです。
これが大きな失敗となりました。
私は、二つに分けた水のうち、一つの水しか使用せず、もう一つの水の存在をすっかり忘れてしまいました。
事態に気づいた時には既に手遅れで、ゴムのような固い生地ができてしまいました。
私も棄権か?
と思いましたが、あきらめず続ける事にしました。
一か八か、緊急事態のため通常ではありえない邪道製法でしのぐ
ここからは通常のパン製造の工程からは、かけ離れた作業をする事になりました。
まず、パン生地に水を少し入れ、
素手でこねては、また水を入れてを繰り返しました。(必死💦)
すると少しずつパン生地に水がなじんでいきました。
全ての水を入れ終え、再度ミキサーで高速攪拌し、なんとかいい状態の生地を作ることができました。
ですが、かなりの時間ロスをしてしまいました。
その分を後の工程で少しずつへしおりながら、何とか最終工程の焼成までたどり着きました。
何事もあきらめず、全力を尽くすこと!
パンをオーブンに入れて時計を見ると制限時間が迫っていました。
良い製品を作りたい、でも時間はオーバーしたくない、葛藤がありました。
(この時の良い製品を作りたいとは、もう少しホイロを出したり、窯のびを期待して時間をかけること)
「よし今だ!」オーブンから出して、試験官の前の作業台の上にパン型を逆さにして食パンを出し、私の「終わりました!」の声と試験官の「やめ」の声が同時でした。
試験官、順番待ちしている受験生の間から、「お~~~っ」という声があがりました。
ハプニングから注目されていたようです。
試験結果は、おかげ様で無事に合格する事ができました。
ちなみにというと、最大手メーカーの2名は大幅な時間オーバーで失格となりました。
同じ作業台で試験に臨んだ4名のうち、大手企業の男性3名は不合格。
町の小さなパン屋である私ただ1人だけが合格しました。
何事もあきらめずに最後まで挑戦する事は大切ですね。
こうして、私は晴れて国家資格、一級パン製造技能士となりました。
千葉県で女性第一号とのことです。
また、千葉県は昔からパンメーカー、製造者も多く、全国に先駆けてパン製造技能士検定制度に積極的に取り組んでいる為、
千葉県で女性第一号であれば国内女性第一号ではないか?との事でした。
これからも、明るく元気に挑戦し続ける町のパン屋でありたいと思います。
分銅ばかり(上皿さおはかり)